6.良いものを良いと感じる心が、自分を育てる
是非、さかい九頭竜音楽コンクールにも審査員で参加してほしいですね。
大学で教える仕事も、定年となり数年たちます。
年をとって60過ぎると、オーケストラからの出演依頼もぱっと途絶えます。
聞くと、団員を定年で退職させているのに、エキストラで呼ぶわけにもいかないらしくて……。
だから、この年になると演奏の場を自分で創らねば演奏する機会がなくなっています。
先生の故郷、福井に思う事はありますか?
福井の県民性もあるのかもしれませんが、なんとなく自分の中に沈んでいる感じがします。
上に出る人は出るんですけど、日頃から自分を表に出して動いてないような。
自分の持っている力を信じて、行動力を持てるかどうかが大事だと思います。
空気も良いし、土地は広いし、文化施設もたくさんある。
本来ならば芸術が育つ環境だと思います。
多分、中にいるとそれが当たり前になるのかもしれません。
良いものを良いと感じられるようになると、変わっていくのかもしれないです。
後は、福井に限らず日本は音楽文化が育ちにくい感じがします。
フランスは音楽文化が根付いているけど、演奏の下手な人はたくさんいます。
ただ、上手とか下手とかみんな気にせず楽しんでやっている。
留学中にもいろんなところへ行きましたが、例えばおじいちゃんが一生懸命に演奏しているけどへたくそでした。
でも、その演奏をけなすのではなく、好きな人が好きで取り組んでいる事を周りのみんなで楽しみ合っていました。
日本人は下手だと人前に出るのを恥ずかしがってしまう所があるかな。
もっと自分の興味のあるところに行けばいいのにと思います。
7.昔より練習しています
先生の今後の夢を聞かせてください。
まずは、次のコンサートに向けてですね。
今は弟子と一緒に演奏活動をしています。
弟子の方から一緒にやりましょうと言われて、あちこちでコンサートが出来ています。
今度のコンサートもみんな凄いメンバーで、世界的に活躍しているし、なにより若い彼らとやっていて楽しいですね。
自分が足ひっぱるとまずいので昔より練習しています。
後は、2024年の3月には、デビュー50周年の記念コンサートを開催いたします。
また、インターナショナルサクソフォーンカルテットというのを組んでます。
フランス人と、カナダ人と、アメリカ人と僕の多国籍カルテットです。
元々、私を除いた他のメンバーは、ベルギーであったコンクールの審査員でした。
楽器メーカー、セルマー社(※)の社長が来ていて、みんなでバカ騒ぎしていたみたいです。
その社長から「こんなに仲が良いのなら、4年に1回ある国際会議(コングレス)に出てみたら」と参加する事に。
僕は違う知り合い経由でそのコングレスに参加する事になっていたのですが、メンバーの一人のロシア人が音信不通になってしまい、急遽私がメンバーとして参加する事になったんです。
空港に着いたとたんに拉致されて、練習会場に連れていかれました(笑)
※世界的に使用されている総合管楽器メーカー
《インターナショナルサクソフォーンカルテットによる収録風景》
演奏が終わると絶賛されて、このまま終わるのはもったいない。
という事になり、いろんな国で演奏しています。
来月の国際会議でも演奏が決まっています。
僕は再来年77歳なるんですが、その時には是非地元福井でコンサートやりたいと思ってます。
どこでやるかは決まってませんが。
《インターナショナルサクソフォーンカルテットのメンバーと》
8.あきらめない事は、自分を維持するエネルギー
今も現役バリバリで、世界中で活躍しておられますね。
最後に先生から若い演奏家へのアドバイスがあればお願いいたします。
今、若い演奏家はものすごく上手になってレベルも上がっています。
ただ、演奏テクニックはとても上手なんだけど、表現する力がもっと多ければいいなと思う事が多いです。
なかなか伝わらないからあんまり本人には言わないんだけど(笑)
自分が若いうちからそこまで出来ていたかというと、そんな事もなかったと思うしね。
今は世界の情報がすぐ手に入る。
それをいかに自分の生活に残しながら生きていけるか。
アマチュアでやり続ける人もいるだろうし、僕のようにプロとして生活する人もいるだろうし、時代にも、自分にも合う発展の方法があるはずなので、それをいかに見つけて、大事に育てる事が出来るかが大切だと思います。
それと絶対あきらめないで欲しいです。
あきらめない事は自分を維持するエネルギーになります。
いかにあきらめないで目的に向かえるか。
目的に向かうためのエネルギーをいかに養えるかが大事だと思います。
僕ぐらいの年になると、そんなエネルギーもないけれど……(笑)
【2023.11.15 インタビュー】